レストランにて。VIPだけが入れるような個室。 男「今日は、君のためにちょっと奮発してみたんだ。あ、持って来てくれるかな?」 ウェイター「かしこまりました」 女「いつもそうやってじらすのよね。楽しみだけど」 ウェイター「お待たせいたしました。まずは、白色種の5年ものでございます。」 女「あら、これは…。噂には聞いてたけど、食べるのは初めて」 男「白色種は、柔らかいんだよ。口当たりがいい。でも、これは特に味がいいね」 ウェイター「はい。多くのものは何らかの化学物質を与えているのですが、これは植物性のもののみを与えて栽培されたものですので」 ウェイター「黒色種、2年ものでございます」 男「おや、若いのが手に入ったんだね」 ウェイター「はい。普段ひいきにしていただいておりますので、特に探して参りました」 男「それはうれしいね」 女「少しかたい感じがするけど、味が濃いわね」 ウェイター「味が濃い特性を活かして、最近では白色種との掛け合わせの研究が行われております」 男「それは、黄色種かな」 ウェイター「はい、5年ものでございます」 男「以前は白色種に人気があったんだけど、最近、黄色種が注目されてるんだったね」 ウェイター「その通りでございます。柔らかすぎずかたすぎず、それでいて味のバランスがよくなってきておりますので。」 女「へぇ…栽培方法が変わったの?」 ウェイター「いえ、栽培方法というよりも、生産時の方法が変わってきております。黄色種に関しては、以前は単に量産するだけでしたが、最近は、生産時の環境を整えることによって、より品質の高いものを生み出す努力がなされているようです」 女「今日はごちそうさま。めずらしいものが食べられて、よかったわ」 男「そりゃ、どういたしまして。喜んでもらえてうれしいよ」 女「でも、まだまだ反対も多いんでしょ?生産環境も、倫理的に微妙だし」 男「いや、さっきウェイターの言ってた事の補足になるけど、最近は人工的に『空間』を作り出して、そこで生産してるって聞いたよ」 女「技術の進歩、かしら」 男「ああ。牛や豚の生産が少なくなって頼れなくなった今、こうやってヒトを食肉として大量にクローン生産することが求められてるんだ。遅かれ早かれ、スーパーに並ぶようになるんじゃないかな。」 ずっと先の話。あるいは、ありえない歴史。 |